かなりヤッツケで書かれた本
ちょっとタイトルに惹かれて「もしかするとぼくが読みたいことが書いてあるかも」と思ってKindle版を購入した。ぼくが惹かれたタイトルは『超ヒマ社会をつくる』だ。ちょうど新型コロナ騒動でいろいろなプロジェクトが止まり、文字通りヒマだったのもあり、近未来はヒマな中で生きていくことになるのかも知れないぞ、などど想像を巡らしていた。そこにこのタイトルなので読んでみたわけである。
著者は中村伊知哉氏。個人的な印象だと、民間と行政の両方をいいとこ取りしている類の、いわゆる要領のいい知識人という感じだ。慶応の先生をしつつ、総務省の事業などにいろいろ関与したり。文中でも触れられているが、最近ではi専門職大学(設置認可申請中・仮称)の学長に就任予定だそうだ。
学長メッセージ|情報経営イノベーション専門職大学|ICTで、まだない幸せをつくる。【iU】
スマートフォンが生まれて、約10年。 手のひらで世界中とコミュニケーションを図れ、写真や動画を撮影して発信でき、買い物もできるようになりました。 今もなお、ものすごいスピードで世界が変化しています。 私たちの未来は、これからどうなっていくのか。 想像が追いつかない状況ではあるものの、そんな時代の変わり目に生きていることを、私はすごくうれしく感じます。 …
あとがき(おわりに)にも10日で10万字書いたとある。まあアタマの中にあったこととはいえ、書くという行為としては結構ヤッツケ仕事といっていいだろう。
それとダウンロードしてから気になったのが、この本はヨシモトブックスから出版されていること。
ヨシモトブックス
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まあ、なんというか、そこはかとない「うさん臭さ」が出版の背景に漂うよな。要は「クールジャパン」的なダメなやつ。というか、それそのものか。そう思って読み始めると、官民癒着の腐臭が濃厚に漂ってくる気がする。そこはかとない、というレベルじゃないかも。
それに2020年の東京五輪を情報発信の最大の契機と捉えているのも、いまとなっては涙を誘う。未来予測本なだけに、前提となる「平穏」が崩されてしまうと、未来予測自体が信憑性を失ってしまうわけで。と、いろいろあってハイコンテクストな分析としてはあまり心が揺さぶられない本だ。
とはいえいいことも書いてある
とはいえ、それなりの要領のいい知識人の著作なのでそれなりの情報収集はされているし、勉強になることも多い。それはホント。いろいろ書いてあるけれど、要はAIがもたらすインパクトを「シンギュラリティ」に顕著なネガティブな捉え方で語るのではなくて、人間を画一的な作業から解放してくれるものとポジティブに捉える立場であることは明確。だから、ヒマができる、って話ね。
それに至る部分では、主に米国や中国などの先進事例などを引いたりして、現在と近未来についての示唆を与えてくれる。新しいことは書いてないけれどリマインドさせてくれる点では有益。例えばこんな感じだ。
中国のeコマース売上は小売りの20%。日本もじきにそうなる。30兆円ぐらいの市場が現れる。
『超ヒマ社会をつくる』すっかり財布を持たなくなった
コミュニケーションの密度が高くなった。すると、より濃いコミュニケーションと、それに適した近接のコミュニティが欲しくなる。
『超ヒマ社会をつくる』みんな都心に集まってきた
駒沢大学・井上智洋准教授は、人間に残されるのはC:クリエイティビティ(創造性)、M:マネジメント、H:ホスピタリティのCMHという“人間くさい仕事”だとする。
『超ヒマ社会をつくる』「遊び方革命」を起こせ
ヒマになっても、ひまつぶしのために人は仕事する。その仕事で報酬を得られなくても、生産に寄与する行為を続ける。本人が仕事と思っていても、周りから見れば遊んでいる、そんなことを大勢がするだろう。
『超ヒマ社会をつくる』「遊び方革命」を起こせ
東京大学先端科学技術研究センターの檜山敦博士は、複数人で1人分の仕事を行う「モザイク型就労」を提案する。
『超ヒマ社会をつくる』超ヒマ社会は忙しい
まあそれなりに意味のあることだとは思うけど、特段面白いことは書いてないよね、やっぱり。
AIのある未来を遊び倒す
この本からぼくらが学びとるべきことは、昭和から平成にかけての常識だった、自分の時間をいわゆる仕事に費やすのが当たり前という概念を疑うことだと思う。この概念は強固だ。何か楽しい遊びをするためには、まず仕事をしっかりやって稼がなければならない、というのがこの時代の価値観である。これが今後どう変わっていくか、それを凝視したいと思っている。
ワークライフバランスという言葉がある。でもよくよく考えると、これも変な言葉である。ライフとワークがバランスをとるべき概念か?ワークはライフの中の一部でしかないのに。ここにワークが肥大した時代のある種異常な価値観が表出されているのだとぼくは思う。
AIに期待するのは、人間がしなくていいワークをしてもらうことだ。できれば人間にしかできないこと以外は全てAIにやってもらいたい。そうすれば、著者の中村伊知哉氏が言うような、人間は遊んでいても良い世界が現出するかも知れない。
どうなるかな。AIが人間をワークの奴隷から解放してくれるかな。趨勢はわからないが、ぼくはそんな未来を夢見ている。人間は短い人生を謳歌する必要があり、全ての人はその権利を有している、とぼくは考えたい。AIの登場と普及が、中村伊知哉氏の言うような「人間が人間らしく生きられる社会」の創出につながるといいなと思う。
その時、ぼくは何をするかって?
もちろん、小さな冒険に決まっているじゃない。(笑)