露悪的になれる人はすごい
新年早々、本についてのポスト。でもこれは年初に読むべき書だと思うんですよね。今回の課題図書はこちら。成毛眞さんの著作『2040年の未来予測』です。
著者の成毛眞さんは博覧強記の面白いお方。ざっくりした経歴を書いておくと、黎明期の日本マイクロソフトの社長を務め、その後、ハンズオンで投資しつつ投資先にコンサルティングも行うという面白いプライベートエクイティのインスパイアを創業。
その後、書評サイトのHONZを立ち上げて成功させてからは、むしろ著述家として頭角を表している要は才人です。経営者、博識者、著述家、さらには批評家としての目も鋭いのが成毛さんのすごいところです。
そして知識人によくある知識先行ではなく、この方はあくまでも自らの強い興味に突き動かされた実体験をベースに語るところが特徴。そのリアリティが魅力です。実際見てきた人に話を聴きたいという気持ちが強い人には刺さります。
個人的に、博報堂を辞めた後、ぼくは成毛さんのインスパイアと色々な仕事をしていたりします。それ以前に博報堂時代には日本マイクロソフトがクライアントだったりしました。
その当時、博報堂の上層部や本社部門では「マイクロソフト」を誰も知らず、クライアント登録の際に一悶着あったりしたのはいい思い出です。博報堂の本社部門はその当時「ミクロソフト」と言ってたんですよ。(笑)
広告代理店なんてそんなものです。真に新しい領域は理解できません。まあ1990年くらいの話だけどね。だから今もこれからも広告代理店がイノベーションを起こしたり、イノベーションに加担することはないでしょうね。つまり永遠の追従者なのです。閑話休題。
成毛さんとは実際にお会いしたのは一度だけ。インスパイアと協働したプロジェクトのセミナーで登壇して頂いた時に立ち話をちょこっとだけ。京都のお茶屋さんの話題でした。
海野さんはお茶屋さん、大丈夫ですよ
そんなことを言って頂いたことを思い出しますね。残念ながら、一度もお茶屋さんにご一緒したことはありませんが、今後何かの機会にご一緒できたらいいなと今も思っています。
成毛さんはFBなどで見ると、博覧強記なのに加えて、要は「アホ」「バカ」の類に対して容赦ないのが面白いです。マジで容赦ない。SNSで出会った「アホ」「バカ」は秒でブロックのようです。これ見習わないとね。
大衆の前で露悪的になれる人はすごいです。大抵の人は自分のいいところを出そうとします。「アホ」「バカ」に容赦ないことも含めて、自分の思うところ(いいところ、悪いところ含めて)を斟酌しないで吐き出せること。これがすごい人の要件の一つだと、ぼくは思っているのです。
2020年の未来予測、早速読んでみた
そんな感じで遠くて近い成毛眞さんの新しい著作『2040年の未来予測』を早速Kindleで購入し読んでみました。結果的にはとても有益でした。みんな読んだほうがいいよ。
ぼくはこの本について、こう思いました。
これは思考ドリルだ
です。
この本を読んで書かれていることから学ぼうというよりは、書かれていることをベースに、自分でもアタマを働かせて、同じ問題を解いてみる、というのがこの本の本質だと思ったのです。
そもそもこの本が取り上げているテーマについて、全く知らなかったり興味がなかったりする人はこの本を読まないと思われます。つまり、見出しレベルなら知っている人がこの本の読者の中心になると思うのです。
ぼんやりと知っているけれど確信には至っていない。そんな人こそこの本を読みながらアタマを働かせることで2040年、つまり20年後を見通して、今からどんなことを考え実行していかねばならないのか、がリアルに体感できるのですよね。
ぼくは自分で言うのもなんですが、この本に書いてあることについて、全くわからない領域はありませんでした。しかし、これらについて広範にかつフラットに考える機会はなかったのでその点では極めて有益でした。
ぼくが特にいいなと思ったのは、全個体電池についての情報と、天変地異のリスクについての情報です。特に天変地異のリスクについて、成毛さんはどこからか調べてきて、非常に腹に落ちる記述をされているのです。例えばこんな感じ。
マグニチュード(M)9級の南海トラフは、30年以内に70〜80%、M7級の首都直下型は70%の確率で起こると予測されている。今後30年で交通事故に遭遇して怪我を負ったり、死んだりする確率(1.05%)よりはるかに高い。
成毛眞「2040年の未来予測」
地震発生から20年間の経済損失は、首都直下型で778兆円、南海トラフで1410兆円になると推定している。
成毛眞「2040年の未来予測」
また間接の経済被害も、道路や港湾、堤防といったインフラの耐震工事などを進めれば、被害が抑えられるはずだろう。これらの対策には10兆円がかかるが、778兆円の被害が530兆円程度に減る試算もある。財源の問題を指摘する声もあるだろう。それならば、東京一極集中を見直せばよい。経済活動の3割を地方に分散すれば、首都直下型地震による被害額は219兆円軽減できるという資産もある。
成毛眞「2040年の未来予測」
(富士山噴火について)政府が試算した首都圏が受ける被害は、噴火後の15日目には都心部で10センチほども積もり、約5億立方メートルの火山灰を都内から撤去しなければならなくなる。これは東日本大震災で発生した廃棄物の10倍に当たる。
成毛眞「2040年の未来予測」
気候変動がもたらす不安や連鎖反応が最悪の展開になることは広く知られる。気温と暴力の関係を数値化する研究によると、平均気温が0.5℃上がるごとに、武力衝突の危険性は10〜20パーセント高くなるという。
成毛眞「2040年の未来予測」
まずは適切な数字で表すことが極めて重要であることがわかりますね。ビジネスマンだったらみんなわかっていることなのに、どうして政治家はそれができないのかしら。(と「緊急事態宣言」がまたぞろ発出されるという前夜にこれを書いております)
現在と未来への考察は誰にも必要だ
現在を把握し、未来に影響を与えるような要因を分析し、未来を予測する。未来予測というのは概ねそんな構造でできています。成毛さんが重要視しているのは、未来に影響を与えるような要因のうち、テクノロジーです。
テクノロジーは、一般大衆にとって現れた当初すぐには理解できないという特徴があります。よって一般的にあるいは社会全体として軽視されやすいわけです。しかし、それこそが未来を切り開くカギである可能性が高い、というメッセージをこの本は送ってくれるのです。
人口をはじめ確定的な要因もあります。わからないことは不安も多い。しかしその中で今想定している以上に説明力を持ち、未来を(想像以上に)変えていくのはテクノロジーである、という確信が成毛さんにはあるのでしょう。
そしてその確信は読者にとっても福音になるのだと思います。これはテクノロジーについての福音書でもあるのです。
もう一つ。成毛さんが語る言葉の中で重要なものがあります。
今、これを読んでいるあなたは、国を忘れて、これからの時代をどうやって生き残るのかをまず考えるべきだ。どう知れば幸せな人生を送れるかに全エネルギーを注ぐのをオススメする。
成毛眞「2040年の未来予測」
要は自分のことに集中せよ、ということです。実在論と唯名論は哲学の重要なテーマの一つですが、「ただ名だけ」の物事に心を砕くな、実存であると直観できる自分とその周辺を大切にせよ、というメッセージ。
成毛さんは「唯名論者」なのかも知れませんね。それはぼくと同じ立場でもあります。唯名論者にとって国は実存ではありません。なので国の有り様について色々と考えるのは貴重な時間の無駄と思うわけですね。
さらに成毛さんは、国も企業も「このコロナ恐慌にあっても」大きく変わっていないことを理由に、こうした存在は変わらないのだ、とある種乱暴に結論づけています。国を変えたい、という気持ちを否定するつもりはありませんが、個人的には成毛さんのメッセージに強く共感します。
最後に。
こうした未来予測を「当たっている」「当たっていない」と評価する立場もまたありえます。しかしその立場を取る人は愚かでしょう。なぜなら、来るべき未来はその人にも必ず前景化するのですから。
要するに、最も大事なことは、
現状の分析と未来予測を「自分を主語に」行うこと
です。
成毛さんがこの本を執筆した意図もおそらくそこにあるのだと思います。
未来は誰にもわからない。
でも
誰にでも未来はやってくる。
だから、
誰もが未来に備える必要がある。
改めて書いてみると自明のことばかり。しかし、往々にしてぼくたちはこんな自明のことをアタマから消し去って、日常つまり「いま」だけに埋没してしまいます。
時にはこうした「ノストラダムスの大予言」ではない、普通の現状分析と未来予測のレッスンをやってみるのも大事なのではないでしょうか。
ぼくはそう思いました。気になる人はぜひこの「未来予測ドリル」をぜひやってみてください。