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環境に対する企業の倫理について考えてみる。

投稿日:2011年7月21日 更新日:

あなたは「バルディーズ原則(Valdez Principles)」という言葉を知っているだろうか?

 これは1989年3月、大型タンカー「エクソン・バルディーズ号」からの原油大量流出事故を契機に取りまとめられた、企業が環境に対して負う責任についての10ヶ条の原則である。インターネット上の情報からその内容(10原則)を記しておく。

〔Valdez〕環境に対する企業倫理の原則。

生物圏の保護
天然資源の持続可能な利用
廃棄物処理と減量
エネルギーの賢明な使用
リスクの削減
安全な製品・サービスの販売
損害賠償
情報公開
環境問題の専門家の任命
環境監査

〔1989年にアラスカで原油流出事故を起こしたタンカーの名に由来〕

以上 三省堂『大辞林』より

バルディーズ原則

 20世紀は人間中心主義の世紀だった。科学技術の進歩に立脚した人間の可能性を礼賛する風潮が多くを支配していたと言えるだろう。その飽くなき向上心と直線的な価値観は人間には何らの限界もないかのように思わせていた。1989年3月にアラスカで起きた大型タンカーからの原油流出事故は周辺の生態系に大きな影響を与え、これを機に企業活動による環境負荷を一定の枠内に収めるための倫理原則がアメリカの非営利団体CERESによって設定されたのである。CERESは原則に同意した企業に投資するなどの活動を展開している。

 2011年3月、わが国で発生した東日本大震災。それに伴う原発災害は発生から4ヶ月以上を経過した現在もその全容を把握できる性質のものではない。原子炉の破壊によって放出された放射性物質は80-100テラベクレルという途方もない量であり、それが周辺の人間や生態系はもちろん日本人全体あるいは全世界にどのような影響を与えるのかは想定不能だからである。事故後明らかになった情報によれば、この災害が所謂「人災」であることはほぼ明確であり、その責任は直接の加害者である東京電力と監督官庁である経済産業省及び原子力安全・保安院に帰せられるべきと考えられるが、これら2者はこれまでのところ国民が納得できるような説明責任を果たしてはいない。

 海洋における原油流出事故の影響が甚大であることは想像に難くないが、今回わが国で起きた原発事故は状況によっては50年から100年という単位で環境を汚染することになる点でバルディーズ原則で想定している以上の環境破壊、もっと言えば地球環境破壊を来たす危険性が高い。私たち人類は地球に明滅する命に過ぎず、少なくとも2011年現在この地球という舞台でしか生きられないと言って良いだろう。環境破壊とりわけ放射性物質による環境破壊が罪深いのは、私たちが生きているこの地球環境に回復不可能とも思われる損害を与える点である。更に付け加えると、日本人の死生観、自然観にも触れておかねばならない。祖先を神と考える祖先崇拝は日本人の世界観に強固である。祖先から連綿と繋がる命の流れが四季や大地や生き物と一体化して、いまに生きる人々を守る、という想念が日本人の精神の深奥に宿っている。(これらは私の想定ではなく、定量調査の結果として数量化された客観的事実でもあるが、その説明は次回に譲る) そんな世界観を持つ日本人にとって生まれ育った故郷である土地を半永久的に失うことは耐えられないことである。先祖から引継ぎ次代に渡すべき尊い継承物をある代で失ってよいはずがないだろう。

 私は2011.3.11を契機として、バルディーズ原則を下敷きとした【福島原則】を設定することを提案したい。人類が経験した中で最悪の部類の事故は、企業や行政の倫理観の欠如によって引き起こされたのである。二度とこのようなことを起こさない(少なくともそうした方向に事態を進めていく)ためにも、【福島原則】を設定し、これを国際的にも共有していくことが必要なのではないだろうか。以下に草案を記しておく。

【福島原則】 Fukushima Principles
原子力事故など21世紀に想定される甚大な環境リスクに対する企業および行政倫理の原則を定める。

生物圏の時間的な保護
天然資源の持続可能な利用
再生可能エネルギーの利用
廃棄物処理方法の確立と減量の徹底
エネルギーの賢明な使用
リスクの想定と明示
リスク回避のための安全な設備整備
安全な製品・サービスの販売
損害賠償
情報公開
環境問題の専門家の任命
第三者機関による環境監査
生物圏の空間的な保護

2011年に大規模な原子力事故を引き起こした原子力発電所の所在地に由来・2011年7月21日起草

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