出会いはすぐ近くにある
若い友人たちに導かれてロードバイクの世界に足を踏み入れた当時52歳のぼく。まずはロードバイクというものを自分の目で見てみるために、自宅から最も近い六本木ヒルズのトレックストア六本木を訪れました。
六本木ヒルズはなかなか複雑な構造の施設です。トレックストア六本木があるのは、旧テレビ朝日通りとけやき坂の交差点近く。グランドハイアット東京のある辺りで、六本木ヒルズの中では、麻布十番からは最も遠いエリアです。自宅からは徒歩20分くらいかな。とにかくそこまでテクテクと歩いて行き、ロードバイクについて教えて欲しい旨、お店のスタッフに伝えました。
そのときどんな話を聞いたのか。不思議なことにほとんど覚えていません。この数日後、トレックストア昭島でドマーネとエモンダに乗り比べることになるのですが、この段階ではほぼ実車に関する何の知識もなかったのです。よって、スタッフの話がほとんどわからなかったのではないかと思います。やれやれ。でもね、実際の試乗のことはとてもヴィヴィッドに思い出せるのです。ぼくの年齢なども勘案してか、試乗車はエモンダSL6となりました。先の投稿でも書いたと思いますが、トレックのロードバイクの中ではミドルクラスの軽量オールラウンダーです。カーボンのフレームはマットカリフォルニアスカイブルーに塗装されていました。
この色好きだな。
詳しいことはわかりませんが、それが第一印象だったのです。そして実際に乗ってみると、ロードバイクとはなんとデリケートなものなのか、と思いました。まず軽量だから安定しません。後から思ったのですが、重たいものは安定しています。しかし軽いものは安定しません。8キロ程度の重さのバイクに70キロくらいの人間が乗っかるわけです。当然、自分の身体のバランスを保つ能力が問われます。でもそのときのぼくは何十年ぶりかに自転車に乗ったわけで、そうとうヨレヨレだったと思います。ロードバイクのようなデリケートな体重移動で乗りこなすバイクを安定させられなかったのは当たり前でした。
軽いバイクを安定させられなかっただけでなく、繊細なハンドリングにもビビりました。いまでこそロードバイクの切れ味のよいハンドリングは快感ですが、当時は過敏過ぎて扱いづらいという印象だったのです。しかもドロップハンドルは低く、サドルは高い。つまりかなりの前傾姿勢を強いられるわけです。
なんだか難しそうな乗物だなぁ。
初めての試乗の後、ぼくがロードバイクに対して抱いた印象はそんなものでした。でもその数日後、トレックストア昭島でドマーネ(SL5)とエモンダ(S5)をある程度まとまった距離を乗り比べて、明らかにエモンダの方が好きだな、とわかったぼくは、昭島の在庫ではなく、あの六本木の試乗車だったマットカリフォルニアスカイブルーのSL6がいいな、と直感的に思ったのでした。
昭島でウェアなど数点を購入した足で、ぼくはトレックストア六本木に行き、先日の試乗車を買えないか、とストアのスタッフに交渉しました。結果はOKでした。しかも試乗車から下すのでかなりお安くしてもらえました。試乗車は嫌だという人も多いかと思いますが、個人的にロードバイクの場合、明らかな劣化などがなければ試乗車は結構オトクに買えるのでよい選択肢だと思います。自分が気に入ったモデル、カラーのものが試乗車であれば、結構ねらい目なのではないでしょうか。
ぼくのTREK Emonda SL6 2017MY
そんな経緯でぼくは自宅から一番近いトレックストアでEmonda SL6を購入しました。別にTREKが好きとか、そういうことではないです。何度も書いた通り、一番近くにあるお店でピンと来たバイクを購入した、ということです。よく気に入ったデザインのバイクを選ぶべき、という意見を見聞きします。これは半分正しい。なぜなら「イチバン近くのプロショップで売っているものの中で」という条件が付くからです。本当にデザインだけで選んでそれを買うのはあまりよろしくないと個人的には思います。ロードバイクについて教えてくれる師匠も、メンテナンスしてくれるお店も同時に手に入れることが最重要だからです。
はい。ぼくの生まれて初めてのロードバイクはこんな感じで決まりました。
MODEL | TREK Emonda SL6(MY2017) |
PRICE | ¥339,000(Tax Included) |
SIZE | 52 |
COLOR | Matte California Sky Blue |
FRAME | Ultralight 500 Series OCLV Carbon |
FORK | Emonda Full Carbon |
REAR DERAILLEUR | Shimano Urtegra |
CRANK | Shimano Urtegra 50/34 |
WHEELS | Bontrager Race Tubeless Ready |
初めての1台としては十分なスペックのものを購入できたと思います。フレームは2017年としては上から2番目のクオリティのカーボンフレーム。フロントフォークもカーボン、つまりフルカーボンのバイクです。ディレイラーはこれもシマノのラインナップで上から2番目のアルテグラ。もちろんフロントディレイラーもアルテグラです。前後のブレーキもアルテグラ。クランクもアルテグラなので、このバイクはすべてアルテグラで組まれています。
ちなみにディレイラー(変速機)をはじめとするパーツのことを、ロードバイク界隈では「コンポ」と呼びます。コンポーネントの略です。コンポーネンツのメーカーは日本のシマノ、イタリアのカンパニョーロ、アメリカのスラムなどが有名ですが、名実ともにシマノがナンバーワンブランドと言ってよいと思います。シマノのコンポもグレードの高い順に、
①デュラエース
②アルテグラ
③105
④ティアグラ
⑤ソラ
⑥クラリス
となっていて、ロードバイクとしての拡張性を考えると、③②①を選ぶべきというのが定説になっています。安価なロードバイクは④⑤辺りを使っていますし、クロスバイクは⑥⑤辺りがメインです。コンポーネントという観点だと、ぼくのEmonda SL6はかなり高級なパーツが奢られたバイクということになります。
自分のバイクが一番いい
購入したバイクが一番好き。そう思えることが大事です。もちろん、ほかにも素敵なバイク、かっこいいバイクはいくらでもあります。でもロードバイクの場合、自分と縁があって出会ったバイク、という考え方が正しい気がします。これはポルシェの買い方に通じています。ポルシェもいままで生産された車のうち、8割くらいが現存しているという奇跡のようなメーカーです。宝石のように、いつまでも朽ち果てず、誰かの手元から誰かの手元に移っていく。だから、オーナーはオーナーでありつつ、ポルシェを一時的に預かっているだけだ、と考えるわけです。
精悍で美しいロードバイクという存在。自分のバイクも、何かの縁で自分が乗ることになっただけだと思ってみてはどうでしょう?何らかの運命的な出会いで、いまのバイクになったのだと思うのです。武士にとっての刀とかも同じニュアンスがあるかも知れません。まあ、ぼくらは武士の時代に生きていないので全くの想像でしかありませんが。
ぼくは自分が初めて買ったロードバイク、マットカリフォルニアスカイブルーのトレックエモンダSL6が大好きです。少なくとも、いまの自分の脚力であれば、こいつで十分ですし、むしろ十分すぎると思っています。もしかしたら一生このバイクでいいかも知れない。つまり、それくらい気に入って、愛着があるよ、ということです。ロードバイクを始めるオヤジさんにも、そんな素敵なバイクとの出会いがあることを願っています。