Fitbitが広告出稿している
地上波民放のテレビを見ることはほとんどないわけだけれど、朝の時間はぼんやりとニュースショーみたいな番組をつけています。重要な情報はほぼインターネットと特定のコネクションから入って来ます。
でもテレビは突然の出会いのように、ジャンクな情報だけれど、意外に味のある情報が入ってくるので完全にはシャットアウトできません。だからマーケティングを仕事にしている人は時々は地上波民放を見なくちゃね。
最近気になるのがFitbitが広告を始めたということ。ちなみにFitbitを知らない人のために説明すると、Fitbitは「フィットビット」と読みます。アクティブトラッカーと呼ばれるカテゴリーのデバイスだと理解してください。
日本語で言うと「活動量計」と言うジャンル。GPS及び各種センサーを搭載して、人の様々なアクションを計測して見える化してくれます。その歴史は結構古く、アップルウォッチ発売の前から存在していたように思います。
ちなみに流れている広告はこんな感じ。
他にも何パターンか放送されている。ここで紹介されている商品は活動量計から発展した「スマートウォッチ型」のプロダクト。Amazonで探してみたけれど、多分、これだと思う。
Fitbit Senseというプロダクト。価格は3万円を超えているので、アップルウォッチSEとガチンコで競合しますね。
Fitbitプレミアムって何?
そしてこの広告コピーの中でも謳われているのが、月額課金のFitbitプレミアムというヘルスケアASPとの連携。サービスの枠組みとしてはこんな感じ。
新しい Fitbit Premium 会員になって健康習慣を身につけましょう。 – Fitbit Blog
Premium 会員なら、さらに充実した Fitbit エクスペリエンスが可能になります。手首のデバイスからのデータで、カスタマイズされた健康管理とフィットネスの分析を把握して、意欲を高めるガイダンスを取得しましょう。Premium は、運動、睡眠、食事の改善とストレスの軽減をサポートするための、ご愛用の Fitbit アプリ機能を大きく上回る、Fitbit の 10 …
ポイントは以下のようなもの。
- 有料の会員組織
- 月額課金は1100円
- 年額だと8900円
- Androidスマホを持っていると少し安いらしい
- 生体情報を含めデータをウェアラブルデバイスから取得
- レポートをカスタマイズできる
- パーソナライズされたアドバイスが得られる様子
第一印象だとちょっと高いかな。
パーソナライズされたアドバイスが得られる点は、AIダイエットサービスなどに近いけれど、アドバイスはダイエットなどもっと目的がクリアな方が有益な気がしますね。
例えば、このNOOMとか。
Noom Inc.
Ready to stop dieting? Start Noom – an award-winning weight-loss program designed by psychologists & scientifically proven to create real, sustainable results.
Fitbitプレミアムはプロダクトを買うと6ヶ月無料特典がついてくる模様。でもなんとなくだけど、解約率が高そうなサービスですね。
AppleWatch6と比べてみよう
スマートウォッチ形状で、生体情報を取得してパーソナルヘルスケアを支援できるデバイス、ではアップルウォッチという巨大なベンチマークが存在します。できることを簡単に見てみるとかなり似ているので、詳細の分析をしてみようと思います。
Fitbit Sense | AppleWatch6 | |
GPS | ◯ | ◯ |
心拍センサー | ◯ | ◯ |
睡眠トラッキング | ◯ | △ |
歩数計 | ◯ | ◯ |
ワークアウトセンサー | ◯ | ◯ |
皮膚温度センサー | ◯ | × |
ECG/心電図モニタ | × | ◯ |
血中酸素濃度モニタ | NA | ◯ |
ミュージックプレイヤー | ◯ | ◯ |
スマートペイメント | ◯ | ◯ |
Googleアシスタント | ◯ | × |
Amazon Alexa | ◯ | × |
Siri | × | ◯ |
ストレス管理 | ◯ | NA |
バッテリーライフ | 72時間 | 18時間 |
各種通知機能 | ◯ | ◯ |
デバイスデザイン | △ | ◯ |
カスタマイズ性 | △ | ◯ |
デバイスの質感 | △ | ◯ |
サブスクリプション | ◯ | × |
アプリ・エコシステム | × | ◯ |
AppleWatchはシリーズ4のユーザーとして、またAppleWatch6をレビューした経験に基づいてまとめました。Fitbit Senseについてはウェブサイトの情報をベースにしていますが、もしかすると誤記があるかも知れません。その際には修正しようと思います。
機能提供という観点だと、Fitbit Sense、結構頑張っていると思います。しかし、こうしてまとめてみると似ているようで結構違いますね。ぼくが考える大きな相違点は主に以下の通り。
- ストレス管理?
- バッテリーライフ
- デザインと質感
- サブスク含めたユーザビリティ
ストレス管理
もっとも気になるのは「ストレス管理」ですね。AppleWatchはこの言葉を使っていません。Fitbit Senseにおける「ストレス管理」の説明変数を調べてみました。するとこんな感じです。
- 心拍
- 皮膚温度
- 活動レベル
- 睡眠スコア
結局、各種のセンサーによって取得されるデータを「どんなアルゴリズムで解析し、表現するか」の差異と言って良さそうですね。センシングしているデータに関しては皮膚温度の測定をAppleWatchはしていないのが大きな差異といえます。
実際に使用していないので確定的なことは言えませんが、AppleWatchもストレス管理については色々な形で機能を提供しているように思います。
ヘルスケアアプリにはマインドフルネスのメニューがありますし、呼吸アプリで深呼吸を促したりもします。つまり「ストレス管理」に関して、両者の差異というか、Fitbit Senseのアドバンテージはそれほど大きくない、と言えるのではないかと思います。
バッテリーライフ
これはかなり大きな差異がありますね。「同じ機能を提供している」としたら見逃せない差異です。ぼくはAppleWatchで睡眠トラッキングをするため、寝ている時も装着しています。ですからオフィスのデスクにいる時、帰宅してから寝るまでの間を充電の時間に当てています。
使用上、上記の運用で問題はありませんが、バッテリーライフが長くて困ることはないので、アップルにも頑張って欲しいところではあります。
デザインと質感
これはもう、AppleWatchの圧勝、完勝でしょう。Fitbitのデザインはやはりアクティブトラッカーのそれに過ぎません。つまり時計とは別に生体情報などをトラッキングするために着けるデバイス然とした佇まいと質感ですね。
AppleWatchは従来の時計をリプレイスする、というビジョンを持って創造されており、その点が大きく違います。現にこのぼくは持っていた全ての機械式時計を売却してAppleWatchに乗り換えました。
- ROLEX
- PANERAI
- IWC
- CARTIER
- OTHERS
これらのブランドが作ってきた機械式時計を売却させるのは、完全に機能だけでは無理であり、エモーショナルな価値や自己表現に繋がる価値提供ができていないといけません。
⇧はブランド価値の基本のきであり、マーケティングに携わる人間なら誰でも理解できること。つまり、AppleWatchはこれらの時計ブランドの提供価値をリプレイスできているからこそ、ぼくの腕には今、AppleWatchが巻かれているのです。
その点で、
Fitbit SenseがAppleWatchのポジションに来ることは未来永劫ない
とぼくは断言できます。
サブスクを含めたユーザビリティ
これもまたユーザーになってみないとわからない。でも大体の見当はつきます。月額1100円、年額8900円のストレス管理他のサービスですから、多くは期待できないはず。デバイスの販売でかなりの部分を担うモデルでしょう。あとは、データをどの程度の規模まで集められるか。そしてAIによる機械学習がどんなに的確なアドバイスを吐き出せるか、が勝負です。
正直、この点においてはもう勝負はついていると思います。AppleWatchは、2019年の出荷台数だけで3000万台。一般的な意味での生体情報の取得はAppleWatchが勝者です。
Fitbitが戦うとすれば、もっと限定されたマーケットでのデータ収集競争ではないかと思います。仮想敵はGARMINですね。しかしGARMINはマニアックなデバイスブランドとしてはかなり強いブランドなので、Fitbitが成功するには大きなイノベーションが必要な気がします。
結局、Googleの戦略次第
ということで、生体情報等を取得するためのウェアラブルデバイス対決、2020年の段階ではAppleWatchの勝利です。ただこれは、時計型のウェアラブルデバイスにおいては、という条件がつきます。
この後、ウェアラブルデバイスは現在想像もできない形状のものが生まれてくると思います。その時の勝者は誰か、今は全然わかりません。ただ、時計型のウェアラブルデバイスの中では、AppleWatchがもっとも洗練されていると思いますし、当面、ぼくはこのデバイスを愛し、使い続けていくと思いますね。
最後にFitbitが広告を始めた背景について考えてみます。実はFitbitは事実上、Googleの傘下なんですよね。
GoogleのFitbit買収、ようやくEUで承認される – Engadget 日本版
GoogleによるFitbit買収が発表されたのは2019年11月のこと。それから1年以上が経過したものの、まだ買収は完了していませんが、EUの政策執行機関である欧州委員会は12月17日(現地時間)、買収を承認するとの発表を行いました。
実際の買収完了は2021年になる模様。それに先立っての広告展開と捉えてもいいのではないかと思います。
GAFAに関しては特にEUがその独占性に疑義を呈しています。このGoogleによるFitbitの買収もデータの取扱におけるガバナンスや透明性の確保、広告に使用しない誓約など、条件付きでの承認です。
Googleは技術開発に関しては極めて優れた企業ですが、ハードウェア開発についてはアップルに一日の長があります。それが時計型のウェアラブルデバイスにおける差異を産んでいます。
これが時計ではなく、もっとコモディティであれば、Googleの勝算が出てくると思いますね。値段が安く、嗜好性が低いウェアラブルデバイス。IoTにおけるUNIQLOのようなブランドが作れるか。
それが次のステップにおけるGoogleの勝機になる。そう思います。逆に言えば、その時アップルはもっとセグメントされたマーケット、高級感やプレミアム感を得られる方向に舵を切るのではないでしょうか。
それもまた楽しみですね。