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多変量解析が明らかにした「幸福感に繋がる17の要素」~大阪大学社会経済研究所のレポートを読む~

投稿日:2023年1月29日 更新日:

 大阪大学社会経済研究所の筒井義郎氏をはじめとするチームによる非常に興味深いレポートを発見しました。テーマは「なぜあなたは不幸なのか」です。調査概要を見ると、有効回答数4,423サンプルで日本全国から抽出。そのサンプルに対して10段階で「幸福度」の自己評価を取得して、これを目的変数とし、その他さまざまな属性項目を説明変数にして幸福感あるいは不幸感につながる要因を特定する試みです。調査は2004年に行われているので、若干古いですが、とっても興味深くないですか?

幸福論にはいろいろありますが

 「幸福」というテーマは人間にとって普遍的なものです。だからたくさんの考察や著作がこのテーマを取り上げています。「幸福論」もたくさん。有名なアランの「幸福論」より、個人的には福田恒存の「私の幸福論」が好きですね。福田恒存が女性に向けて書いたとされる文献です。その中でぼくの印象に残っているのは以下のフレーズ。

幸福になるには、不幸にならないこと(『私の幸福論』福田恒存)

マキャベリのあの名言とも重なります。曰く。

天国へ行くのにもっとも有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである。

この調査プロジェクトも同じような意図を感じます。なぜなら「なぜあなたは不幸なのか」というタイトルだから。「不幸をもたらす要因を特定することで幸福になろう、あるいはなれるのでは?」というのがこの研究グループからのメッセージと感じられるからです。

幸福を説明変数との回帰関係で表現すると

 目的変数を個々人の「幸福感」あるいは「充足感」としているため、これは絶対値とは言い難い数値です。個々人による相対的な「実感値」を幸福と定義しています。しかしこれはやむを得ないと思いますので、この相対的な「幸福感」を目的変数として受容することにします。

 説明変数は多岐に渡ります。性別、年齢、職業、価値観など、さまざまな変数を設定し、それらが個々人の「幸福感」とどの程度相関するか、あるいは回帰関係にあるかを多変量解析を用いて明らかにしているのがこのリサーチプロジェクトというわけです。詳細分析については、以下に実際のレポートへのリンクを貼っておきます。ご興味のある方はぜひレポートを参照頂ければと思います。

 このレポートが結論づけている、「幸福感」の説明変数とそれへの解説は17あります。非常に面白いので、ひとつずつ紹介し、ぼくなりのコメントを付けていこうと思います。

➊ 男性は平均的には女性より不幸であるが、喫煙習慣をコントロールすると、 有意に不幸であるとはいえない。

⇒つまり男性であることは不幸であり、女性の方が幸福である。喫煙習慣は幸福感に影響する。よって喫煙は止められないのでしょうね。

➋ 全ての属性をコントロールすると、20歳代から60歳代まで、年齢が高いほど不幸である。

⇒人は年齢を重ねるほど不幸になる。若者はそれだけで幸福なのです。

➌世帯所得と一人あたり所得が大きいほど幸福であるが、その増加は逓減的である。平均的な幸福度を見ると、高い所得階層では幸福度の飽和が観察される。

⇒所得は多い方が幸福。でもある程度あればOK。

➍資産が多いほど幸福であるが、平均的な幸福度はかなり低い資産額で飽和する。

⇒資産も多い方が幸福。でもある程度あればOK。

➎所得などを調整しても、学歴が高い人ほど幸福である。ただし、短大卒は 高卒よりも幸福度が低い。

⇒学歴は幸福に影響。(自己満足も含むでしょうが、それでも幸福ならよろしい)

❻所得などを調整しても、求職中の人は不幸である。

⇒職を求めている人≠失職中ではないでしょうが、その傾向は認められるようです。

❼所得などを調整しても、パートで働いている主婦は無職の主婦より不幸である。このことは労働が負効用をもたらすと解釈できる。

⇒なんか切実です。

❽都会に居住するものは幸福である。とりわけ、13大都市居住者は幸福である。

⇒これはわかります。結果かも知れませんが、都会に住んだ方がいいですよ、皆さん。

❾いろいろな属性を調整しても、地域による幸福度の違いが観察される。

⇒住むところは幸福感に影響します。よくよく考えて住みましょう。

❿「他の人の生活水準を意識している」人ほど、「できるだけ質素な生活をしたい」と考える人ほど、「お金を貯めることが人生の目的だ」という人ほど、有意に不幸である。利他的な人は有意に幸福である。

⇒利他的であることは重要ですね。

⓫消費は所得ほど明確に幸福度に影響しない。このことは貯蓄も効用を生む ことを示唆する。

⇒消費してもそれほど幸福にはなれないようです。

⓬所得より生活水準のほうが幸福度に強い影響を持っている。このことは、 絶対所得水準より相対所得水準の方が幸福度に重要であることを示唆する。

⇒解釈がやや難しい。でも我田引水的に解釈するとQOLの高い人は幸福ってことかな?

⓭主婦になった人は高学歴なほど幸福度が低い。

⇒高学歴女性は働いていた方がいいということかしら。物議を醸しそう。

⓮時間割引率が高い人ほど不幸である。

⇒現在価値を優先する人が時間割引率の高い人。つまり「いま」を大事にする人は相対的に不幸だということですよね?

⓯危険回避的な人ほど不幸である。

⇒リスクを取らない人は不幸であるということ。挑戦することは幸福感に繋がるのですね。

⓰時間割引率については、選択する行動変数を通じて幸福度に影響するが、 危険回避度はそのような経路による影響は小さい。

⇒解釈できない。ちょっとわからないな。

⓱環境(生活水準)が高くなると、時間割引率が高い人ほど、また危険回避的な人ほど、より幸福になったと評価する。

⇒成功者は「いま」への拘りが低下し、ややリスクを取らなくなるということかな。

 ね、実に面白いでしょう。数量解析の結果、いわゆる幸福論が裏付けられているように思います。簡単にまとめるとこんな感じでしょうか?

定量化された幸福の姿とは?

ある程度の学歴を得て、
安定的な職に就き、
そこそこの所得と資産を得て、
都市に住んで、
他を羨まず、
利他的に、
質素にならない程度に消費して、
刹那的にならず、
ある程度リスクを取って生きる

これが幸福の数量化の結果ということになるようです。

大阪大学社会経済研究所のレポートはこちら。コンテンツは表示されませんが、リンクは生きているはず。レポートPDFに飛びます。

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